顧問・企業法務

2025/06/02 顧問・企業法務

夜勤の仮眠は「休憩」?それとも「労働時間」? 訪問介護で争われやすい残業代問題とは

「夜勤中に仮眠を取っていた時間は、休憩なので残業代は不要ですよね?」

介護業界でこのようなご相談を受けることは少なくありません。

とくに訪問介護やグループホームなど、少人数体制で夜間対応をしている施設では、「仮眠=休憩かどうか」が大きなトラブルの火種になります。

今回は、夜勤中の仮眠が法的にどう扱われるのか、どのような点に注意すべきかを、実際の相談事例や裁判例をもとに解説します。


【夜勤の「仮眠時間」は本当に休憩?法律上の定義とは】

労働基準法上、「休憩」と認められるには、以下の3つの要件を満たす必要があります。

  1. 労働から完全に解放されていること

  2. 使用者が自由利用を保障していること

  3. 実際に労働の指示・拘束を受けていないこと

たとえば、夜勤中に「何かあったらすぐ起きて対応して」と言われている場合、その時間は原則として“休憩”とはみなされません。


【トラブルになりやすい3つのパターン】

① グループホーム: → 夜間に利用者が徘徊や転倒を起こす可能性がある中での仮眠。

② 訪問介護の夜間巡回: → 寝泊まり場所はあるが、アラームや連絡に即応する前提で待機している。

③ 住宅型有料老人ホーム: → 他職員が不在の中、1人で見守りと清掃を兼務している。

いずれも、「仮眠」と称しつつ、実際は常時監視体制・緊急対応前提というケースが多く、残業代請求のリスクが高まります。


【裁判例や労基署の見解】

実際の裁判でも、形式上「仮眠時間」とされていた時間が労働時間と認定され、 残業代の支払いが命じられたケースがあります。

また、労基署の是正勧告では、「仮眠中も電話応対等がある体制なら労働時間」とする運用が一般的です。


【実際の相談例と顧問弁護士による対応】

ある訪問介護事業所では、夜勤スタッフから「仮眠時間も業務拘束があった」として、 残業代請求が届いたことをきっかけに、労働時間管理の見直しを行いました。

当職が間に入り、就業規則の明確化、仮眠時間中の対応義務の有無、契約書の整備、 給与体系の説明資料を作成し、紛争化を防止しました。


【日頃からできるリスク予防と体制整備】

・夜勤中の対応体制を就業規則に明記する

・仮眠中の電話・呼出し有無を事実として把握

・労働契約書に勤務時間の区分

・性質を記載

・職員にも「労働時間と休憩時間の違い」を説明

こうした体制を整えておくことで、後からトラブルになるリスクを減らすことができます。


【まとめ】

仮眠=休憩ではない、というのが実務上の結論です。 トラブルを未然に防ぐためには、「曖昧な管理」や「慣習ベース」での運用を見直すことが重要です。

不安な場合は、早めに弁護士へ相談し、就業規則や契約書の見直しから着手することをおすすめします。

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© 弁護士 下田和宏