2025/07/08 時事・雑感コラム
「学歴詐称=即アウト」って本当?──市長のニュースをきっかけに考える信用と法的ライン
学歴詐称=即アウト?
──伊東市長のニュースから“信用”を考える
最近話題になった、静岡県伊東市の現職市長による学歴詐称のニュース。
プロフィールや選挙ポスターで「大学卒業」としていたのに、実際は「除籍」だったという話です。
この報道を受けて、「信用できない」「すぐ辞めるべき」という声が一気に高まりました。
でもこの件、少し冷静に考えてみると、疑問も湧いてきます。
本当に「学歴を間違えた=即アウト」なんでしょうか?
そして、私たちはいったい“何”に怒っているんでしょうか?
企業だったらどうなるの?
市長の話からはちょっと離れますが、
企業の採用や就職の場面で「学歴詐称」が発覚したらどうなるか。
これは、ケースによって対応が分かれます。
▼ 内定前の詐称なら → 内定取消もあり得る
たとえば「大卒が条件なのに、実は高卒だった」なんてケースだと、
そもそも採用の前提が崩れているので、内定取消も正当とされます。
▼ 入社後に発覚した場合 → 懲戒処分(または解雇)もあり得る
ただしこの場合も、「その学歴が採用にどれだけ影響したか」がポイントです。
まったく関係ない職種や、専門性が求められないポジションであれば、
いきなり懲戒解雇とはならず、「注意処分」で済むこともあります。
つまり、「嘘をついた=即クビ」ではないんです。
じゃあ、市長はどうなのか?
市長は民間企業の従業員じゃありません。
「有権者からの信任」で職に就いている、いわば選挙で選ばれた代表者です。
雇用契約や就業規則があるわけではないので、
「学歴を間違えていたから懲戒解職」ということはできません。
じゃあ、どうなるかというと──
結局は「有権者の判断」に委ねられるんですね。
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その嘘が、投票行動にどれだけ影響したのか?
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学歴が“卒業”ではなく“中退”だったことで、投票していたか変わったか?
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そして、いまも市長としての仕事ぶりに問題があるのか?
こういった点が問われるべきなんですが、
報道を見ると「嘘をついたこと」だけが一人歩きしている印象です。
嘘が悪いのは当然。でも、何を騙したのか?
もちろん、嘘は良くないです。
経歴や学歴をごまかすのは、公人として不誠実だと思います。
でも、ここで一歩踏み込んで考えたいのは、
「その嘘で、何を騙したのか?」という視点です。
東大卒と偽ったとか、全然違う大学を名乗ったならインパクトもあります。
でも今回のケースは、「卒業」と「中退」の違い。
それが、候補者としての実力・実績・信頼性に、
どこまで本質的な影響を与えるのか? というのは、もっと冷静に見てもいいはずです。
弁護士として思う「信用」とは何か
弁護士をやっていて感じるのは、
世の中って結局「信用」で動いているということです。
契約もそう、約束もそう。
“相手がこういう人だから信じて任せられる”っていう前提があって、物事は成り立っています。
だからこそ、「信用を壊すような嘘」はよくない。
でも同時に、「どれくらいの嘘だったのか」「それによって何が変わったのか」を冷静に見ないと、
本質を見失ってしまう気がするんです。
“肩書き”や“見栄え”に振り回されすぎてないか?
今回の件、裏を返せば、
私たちはそれだけ“肩書き”や“経歴”に価値を感じすぎてるんじゃないか?
という問いでもあります。
学歴、所属、見た目、ブランド、SNSのフォロワー数……
「それっぽいもの」に価値を置きすぎて、中身をちゃんと見ていない。
そういう空気が、そもそも学歴詐称みたいなことを生み出しているのかもしれません。
最後に:本質を見ようとする姿勢を忘れないために
嘘はいけない。信用は大事。
でも、ラベルや肩書きばかりで人を評価する社会もまた、ちょっと息苦しい。
今回のニュースをきっかけに、
「自分は中身を見ようとしてるか?」
「ラベルに安心してないか?」
そんなことを考えてみてもいいかもしれません。